マイクプリアンプの使い方

そもそもマイクプリアンプってなに?

そもそもマイクプリアンプとはどういうものなのかですが、マイクプリアンプはマイクで拾った音声信号を最適なレベルまで増幅してくれる機材となります。

 

例えばギターアンプをイメージしてもらうとわかりやすいのかなと思います。エレキギターは単体で弾いても音がペラペラしていて小さく、実践で使えません。それが、ギターアンプを通すことで、信号を電圧で増幅させて大きな音が出せるようになります。また、それだけでなく、メーカーによってそれぞれ音に特徴が出ます。マーシャルは真空管アンプを採用しており、ふくらみや暖かみを持たせる音になっていますし、RolandのJCシリーズではトランジスタを採用しておりクールで硬いサウンドを実現させています。

 

マイクプリアンプも同じで、間にマイクプリアンプを挟むことで、音声信号を増幅させて、実践的な大きな音にするだけでなく、メーカーによってそれぞれ音に特徴が出ます。メーカーによる特徴はおすすめのマイクプリアンプの項目で詳しく解説していきます。

 

マイクプリアンプ単体って必要なの?

マイクプリアンプ単体を購入する必要があるのかですが、無くても何も問題ないのですが、よりよい音でとりたい場合は購入を検討してもよいと思います。

 

マイクプリアンプ自体はオーディオインターフェイスに付属されています。例えばSTEINBERG ( スタインバーグ ) からUR22Cというオーディオインターフェイスが発売されていますが、この製品には2ch分のマイク端子がついており、マイクケーブルで繋げてゲイン調整をして入力すると、自動的に「Class A マイクプリアンプ D-PRE」と呼ばれるマイクプリが作動して、自動でマイクから入ってきた音を増幅してくれるようになっています。それぞれオーディオインターフェイスによってマイクプリアンプに特徴があります。スタインバーグはNEVEの1073を模したようなプリになっており、特有の粘りが出る音となっています。

 

フォーカスライトのオーディオインターフェイスは、スタインバーグと似ているのですが、ルパートニーブさんが開発したフォーカスライトISAを模したマイクプリアンプになっており、より柔らかくてシルキーな質感となっています。特に「Clarett+」という製品はかなりレベルが高いです。

 

この2つはアナログの質感で、より生音に近い(ありのままの音がとれる)音で録音ができます。

 

Rolandの場合は高音が少し派手になったようなマイクプリで、音は細めですが、解像度が高く、綺麗に音が取れます。RME(アールエムイー)は音が硬く、より解像度が高く、デジタル音のような、近代的な音がします。生音と実際にレコーディングされた音の差は大きくなりますね。良くも悪くも加工されたような強い音になります。このようにメーカーによって付属プリアンプに特徴があります。ただ、どのメーカーにも言えるのが、近年、マイクプリアンプの質は非常に高くなっています。

 

安物のマイクプリアンプ単体を購入して間に挟むよりは、付属プリアンプを使った方がよい音でとれるのは間違いないです。全体のグレードが底上げされているので、マイクプリアンプ単体で購入する場合は、プロのレコーディングで使われるような、そのレベルのものを買わないと、リターンが望めません。安いマイクプリアンプ単体を購入すると、使ってみて、オーディオインターフェイス付属の方が音がよかった、ということになりかねません。そういった意味でマイクプリアンプ単体購入は玄人向けといえます。

 

マイクプリアンプ単体はどれも大きくて重たいので持ち運びには向きません。私は何度かキャリーバックに入れてFOCUSRITE ( フォーカスライト ) / ISA One を持ち運んでレコスタで使ったことがあるのですが、持ち運びはかなりしんどく現実的ではないなと挫折しました。大きめのキャリーバックでやっと入るくらいの大きさで、重さは約4sあり、片手で持ち上げるだけでも一苦労、パソコン入りバッグを背負いながらプリも運んで、自衛隊の訓練ばりです。電車移動は無謀でした。車移動なら可能だと思いますが。

 

外でレコーディングする場合はオーディオインターフェイスを使用するのが現実的だと思います。宅録の方で、尚且つ、お金をかけてさらにレコーディングの質を高めていきたい、という方でしたら単体購入がよいかと思います。実際に、一定のグレードに達したマイクプリアンプ単体の音は、やはり、オーディオインターフェイス付属とは、一線を画します。

 

ダイナミックマイクを使用する場合は、特にマイクプリ単体の恩恵を受けられると思います。ダイナミックマイクはファンタム電源がないので、なかなかゲインを稼ぐことができません。それが、マイクプリアンプ単体ですと、ゲインを高くまで上げられ、電圧がかかるので、そこでゲインを稼げて、ダイナミックマイクの良さを十分に引き出すことが可能です。オーディオインターフェイスのプリだと、どうしても稼げるゲインに限界があるので、ダイナミックマイクですと、ゲインが足りないケースがあるのです。一般的に単体の方がS/Nが良質だったりヘッドルームが確保できるといわれています。

 

※S/Nとは音声に対してどれだけノイズが乗るのか、という指標となります。たまにゲインをあげていくとすぐにノイズがのってしまう機材があります。それはS/Nが悪いという状態です。ゲインをあげてもノイズが殆ど乗らない状態をS/Nが良いといいます。ヘッドルームはどれだけ大きい音量に耐えられるかという指標となります。ヘッドルームが広いと音が割れにくくなります。

 

プラグインじゃダメなの?

マイクプリアンプの名機(1073や610)をシミュレーションさせたプラグインが、各メーカーから発売されていますが、やはり、実機とは違います。挙動、倍音の出方、音圧の出方、音のふくらみ、全てが別物です。

 

素材を後から音作りで使うのはよいと思います。プラグインにはプラグインでしか出せない音がありますし、実機には実機でしか出せない音があります。「シミュレーション」という言葉に惑わされずに、割り切って、適材適所使っていくのがよいと思います。

 

マイクプリアンプの使い方、接続方法について

接続方法は以下の通りです。

 

  1. オーディオトラックを立ち上げ「I/O」を設定してライン入力を選択する
  2. IFとマイクプリを「TRSフォーンーXLRメス」でライン接続、マイクプリとマイクを「XLRオスーXLRメス」で接続する
  3. IFのラインとマイクプリとで音量(ゲイン)調整をする
  4. まずはDAWでオーディオインターフェイスを認識させ、オーディオトラックをモノラルで立ち上げます(マイク1本で録音する場合モノラルです)。そのオーディオトラックで「I/O」を設定をします。インプットをどのチャンネルから入れるのかという設定です。マイクプリを使う場合はラインに接続することになりますから、ここでラインのチャンネルを選択します。

 

例えばprotoolsで説明すると、左上に小さな窓があるのでそれをクリックします。すると「I/O」という項目が出てくるので、それを選んで、上のインプットを選び、インターフェイスにカーソルを合わせます。すると使用しているオーディオインターフェイスで使用できるチャンネル一覧が出てきます。これは「1-/1(Mono)」がライン入力になるのでそれを選びます。

 

 

「I/O」でライン入力を選択したら、次は実際にケーブルの接続をしていきます。オーディオインターフェイスとマイクプリを「TRSフォーンーXLRメス」ケーブルで接続させます。そしてマイクプリアンプとマイクを「XLRオスーXLRメス」ケーブルで接続させます。

 

接続させるためには当然ですがケーブルが必要です。「TRSフォーンーXLRメス」は長さ1mくらい、「XLRオスーXLRメス」は長さ2mくらい(用途によって調節)です。ケーブルのメーカーは現場でよく使われるカナレやモガミがおすすめです。楽器屋さんには細々としたケーブルは売っていないので、通販で購入するとよいです。ただ、それぞれのマイクプリアンプによって、ついている端子は違うので、全てが全てこれ通りいくとは限りません。使用している機材をしっかりと観察してケーブルを購入するとよいです。

 

マイクプリアンプの繋ぎ方
ケーブルはXLRがメスなのかオスなのか、ライン接続の場合はTRSなのかTSなのか(TRSがバランス接続になるので正解です)、ややこしいので、ちゃんと確認してから購入するようにします。

 


amazonで「xlr trs canare」などで検索すると出てくるので確認してみるとよいです。

 

最後に音量調節です。音量調整できるのが2か所ほどあるはずです。オーディオインターフェイスのラインの部分とマイクプリアンプのゲインの部分です。プリアンプのゲインの部分でプリの挙動や質感が出てくるので、まずはラインの音量を0にしてから、マイクプリアンプのゲインだけで音を作っていきます。ゲインが10〜20だとナチュラルなかかりになりますし、30〜40だとオーバードライブしたような歪んだ音になります。この歪み感は付属のマイクプリでは出せない音です。

 

それを終えたら、後はラインの方で音量を上げていって、オーディオトラックが7割くらいの音量になるようにします。トラックがクリップ(割れ)するのは絶対に避けないといけません。7割くらいが限界かなと思います。

 

ただ、これはそれぞれのオーディオインターフェイスやマイクプリで全然違います。例えば私が所有しているRolandQUAD-CAPTUREとRMEBabyface Proで解説すると、QUAD-CAPTUREのラインの音量を上げるとノイズが多く入ってしまいます。ラインの音量0にしてプリの方だけでゲイン調整をしています。Babyface Proの方はラインを上げてもノイズは入りにくいので、最後の微調整としてラインの音量を少し上げています。

 

それぞれ自分の耳で確認しながら音量調整をしていくとよいです。ただ、いえるのは、必ずマイクプリアンプのゲイン調整をメインにするということです。なぜこのようにするかというと、オーディオインターフェイスのラインの方で音量調節すると、なんのためにマイクプリアンプを接続させたのかわからなくなります。マイクプリアンプでゲインを調節してアンプ特有の質感を付加させることが目的なので。

 

ゲインを上げれば上げるほどプリの特徴が全面に出てきます。また、マイクプリアンプ単体の方がS/Nが良質だったりヘッドルームが広いことが多いので、ノイズがのりにくかったり音が割れにくかったりします。

 

おすすめはシェアーSM58(57)やSM7Bなどダイナミックマイクを使うことです。ダイナミックマイクだとマイクプリのゲインを高く上げても耐えられるので、よりプリアンプの質感を感じやすくなります。レコーディングスタジオでしか触れられないプリアンプを自宅で色々いじり倒すのは楽しいものです。

 

マイクプリアンプ4選について

おすすめのマイクプリアンプは以下の通りです。全て1chの製品なのでモノラル録音となります。それぞれ大定番の製品でプロユースです。

 

  • FOCUSRITE ( フォーカスライト ) / ISA One
  • UNIVERSAL AUDIO ( ユニバーサルオーディオ ) / SOLO/610(オプティカルコンプ付きはLA-610 MKII)
  • UNIVERSAL AUDIO ( ユニバーサルオーディオ ) / 710 TWIN-FINITY
  • AMS Neve ( エーエムエスニーヴ ) / 1073SPX

 

 

ISA OneはLundahl L1538トランスを使用したフォーカスライト伝統のマイクプリアンプです。値段は約7万円です。アコギ、ピアノ、ボーカルで使われることが多いと思います。音はシルキーで粘りがあり、倍音が付加されてウォームな音になります。音はとても柔らかく、それゆえ微妙なニュアンスもそのまま表現します。

 

ボーカルの場合、発声方法によって、声をはったり、ウィスパーボイスになったり様々な表現をしますが、それらをありのまま録音してくれます。繊細な表現を伝えられるという点においては、フォーカスライトが一番だと思います。

 

ただ、このマイクプリはよく賛否が分かれます。最近ではデジタルな、よりクリアな音を製作者は好む傾向にあります。ISA Oneは悪い言い方をすれば、ぼやけた音と言えます。よく言えばアナログな音です。デジタルな音を好む方は思った音でとれませんので避けた方がよいかと思います。

 

後はある程度の歌唱力や演奏力がないと、このマイクプリの性能を引き出すことができません。ボーカルが稚拙だとそのままとれてしまうのです。賛否あるのですが、ニュアンスをしっかりとレコーディングできるという点において類のない製品です。特に実力派ボーカルには相性抜群です。高い歌唱をそのまま録音できます。

 

Focusrite マイクプリアンプ/D.I ISA One

 

 

SOLO/610は真空管(チューブ)タイプのマイクプリとなります。約14万円です。真空管ですので、音をふっくらとさせ、暖かみがでて、抜けるサウンドになります。このプリアンプを通すだけで音楽的な音になるのです。LA-610 MKIIになると、このマイクプリに加えてオプティカルコンプまでついてきます。オプティカルコンプは実機で約30万円以上はしますから、それがセットになって安く売られているので、コスパは非常に高いです。音はアナログではあるのですが、ややクリアなサウンドです。

 

特に声が細いボーカルに相性がよいかと思います。ボーカルによって声が太い方と細い方がいるのですが、細いボーカルは、このマイクプリでとると、チューブによって、声がふっくら太くなるので、補うことが可能です。ボーカル以外にもなんでも使えるマイクプリです。オーディオインターフェイス付属のプリに真空管タイプはありませんから、マイクプリ単体でしか出せない音ですね。

 

UNIVERSAL AUDIO / SOLO/610

 

マイクプリアンプおすすめ厳選4つ紹介、使い方、繋ぎ方について

 

710 TWIN-FINITYは約10万円です。このプリは真空管(チューブ)とソリッドステートを自在にブレンドすることが可能です。チューブは上記で説明した通り、太さと暖かみを与えます。ソリッドステートは素早い反応を見せ、シャッキとした冷たい、鋭いサウンドになります。

 

これを、以下のつまみを使って、例えば「ソリッド50%チューブ50%」というように、自在にブレンドして音に反映させることができます。そんなの気休めの機能でしょ?と思う方もいるかもしれませんが、そんなことはなく、つまみを一捻りするだけで、音の特徴がガラッと変化します。

 


710 TWIN-FINITY
引用:https://www.uaudio.jp/
例えば、エレキギターのカッティングを多用するパートで、ソリッド比率を高めてスピード感のある鋭いサウンドにしたり、アコースティックギターの時はチューブ比率を高めてしっとり暖かくきかせたり、バラードのボーカルではチューブ100%にしてきかせたりなど。様々な楽器(ベース、ギター、ピアノ)、ボーカルの声質に合わせて、自在に特徴を引き出すことが可能です。

 

UNIVERSAL AUDIO / 710 TWIN-FINITY

 

 

1073SPXは1chのAMS Neve1073で値段は約28万円です。1073は業界で定番のマイクプリアンプですね。設計開発が有名なルパートニーブ(Rupert Neve)さんです。フォーカスライトも設計元がルパートニーブさんということもあって、音の特徴が似ています。フォーカスライトに比べて音は硬めですが、ありのままとれるという点は似ていて、1073トランスによって倍音が付加されて、華やかな音になります。地声の低いボーカルに特に相性が良いと思います。

 

独特の粘りのある音で、それが「この音なんか少し違うな」という印象を与えます。ただ音が直線的に立ち上がって消えていくのではなく、粘り強く立ち上がって、穏やかに消えていくという、挙動がイレギュラーというのか、癖になるような音をしていて、そこが最大の特徴です。

 

1073の音を言葉で表してくれと言われても大変難しく、なんとなく人の心を掴むから、多くのレコーディングスタジオで使われているとしか言いようがありません。

 

デジタルは音が直線的で挙動が読めますから限界があります。どうしても音楽制作にはアナログな音が必要になってきます。

 

本家のNEVE1073は1970年代に活躍したプリでもうとうの昔に生産終了してしまったのですが、それを模範(シミュレーション)した製品が各メーカーから多数販売されております。主要を挙げると以下の通りです。

 

・AURORA AUDIO /GTQ2 Mark III ・BAE AUDIO /1073 ・GOLDEN AGE PROJECT /PREQ-73 Premier ・WARM AUDIO /WA73-EQ ・RUPERT NEVE DESIGNS /Shelford Channel ・Vintech Audio / X73i

 

原音に近づけるために多くのメーカーが切磋琢磨しているのです。ユーザーの中でもそれぞれどこどこのメーカーのが良いという意見は多数出ています。ただ、やはり、オリジナルの回路(Neve純正の1073トランス)と音を忠実に再現しているAMSを選ぶのが無難かなと個人的には思います。プロの現場ではAMSが多いようです。低音の出方から音の挙動、粘り、倍音など忠実に再現しており、バランスが良いです。

 

何十年も昔に販売終了したマイクプリアンプの音を、今なおこれだけの人(メーカー)が模範し続けて、さらに商業的にも成り立っているというのは、多くのユーザーが「NEVE1073のあの音」を欲しているという証だと思います。

 

NEVE/1073SPX

 

マイクプリアンプの手入れ方法は?
数か月に1回、定期的にコンセントを挿して電源を入れるだけでよいです。

 

少し話が外れますが、購入する時はサウンドハウスや島村楽器など保証が明記されている店で購入するのがよいかと思います。私は過去にBAE AUDIO /1073を所有しておりましたが(AMSが高くて買えなかったのでBAEを一時期使っていました)、購入から1年ほどでノイズがのるようになってしまいました。

 

サウンドハウスで購入したのですが、問い合わせすると、すぐに対応してくれ、郵送して、修理してもらい、返送してもらいました。アナログ機器なので、何かあったら対応してもらえるという安心感は大きいです。大変高価ですので。

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