Ozone10のAIのマスタリング工程について
izotopeのozone10(Advanced)のAIについてレビューしてみました。
オゾン10とは、マスタートラックにインサートして、AIのスイッチボタンを押せば自動的にマスタリングの全工程をAIがやってくれるというものです。個別でもそれぞれエフェクトが利用できるようになっています。
Ozone10のAIがマスタリングをした工程について、ある楽曲にAIに任せてみました。AIがマスタリングした工程についてですが、合計で6つのエフェクトがインサートされました、次の項で一つ一つ紹介していきます。
ozone10のAIの手順
@Equalizer1
マスタートラックでの帯域バランスを調節するためのEQです。izotopeは予め見本となるEQカーブが用意されていて、それを基準としてイコライザーがかかるようになっているようです。今回は100Hz〜1kHzがカットされていて、高域にかけてはブーストされました。analogモードになっていて、それによってアナログEQの倍音が付加されています。
AStabilizer
ターゲットで選んだ帯域のカーブに従って、動的なEQがかかります。Rockを選びましたので、その帯域カーブに従って、リアルタイムでそのカーブ(模型、見本)から外れた音に瞬時にEQがかかって、補正としてカットされたりブーストされたりする仕様になっています。Ozone10から登場したプラグインですが、より見本の帯域バランスから外れないための工夫だと思います。後は動的EQとなるので、音のかかり方が変化していきます。オートメーションを使っている時のような、エフェクトのかかり方の変動があり、これが良い結果をもたらしています。
BImpact
4バンド構成になっていて、それぞれでトランジェント(アタックをより強くしたり、より弱くしたり)がかかるようになっています。今回は低域と中音域のアタックが強化されて、高域はアタックが抑えられる設定になりました。Ozone10から新登場したプラグインです。おそらくですが、Stabilizerでより型にはめることでダイナミクスが消えるので、それを補うためのプラグインだと思われます。
CImager
イメージャーで中央に寄った音を左右に分散させることで、より音が枠に収まりやすくするためにインサートされたと思われます。
DDynamic EQ
ミックスの段階でコンプレッサーはかけていましたが、コンプは音の帯域の頂点が潰れるだけです。コンプだけでは取り除けなかった音量差、音の暴れを自動感知して帯域毎にダイナミックEQがかかります。合計で6つほどかかっています。
EMaximizer
最後にマキシマイザーで音圧が上がって完了です。ソフトクリップ機能でピーク付近でサチュレーションがかかるようになっていて、より音楽的な質感(アナログの歪み)が感じられる仕組みになっています。このソフトクリップ機能にオーバーサンプリングが導入されていて、音の解像度が上がるようにもなっています。
Ozone 10のAIは結局どうなのか?
個人的に思うのは「音圧に特化した仕様になっている」と思いました。
前の項でAIの工程を見てもらいましたが、見本となる帯域カーブが用意されていて、それに従ってEQ(静的EQと動的EQの両方)がかかります。analogモードによってアナログの質感が全体に加わります。ダイナミックEQによってダイナミクスを極限までなくし(音量差が少ない方が音圧は出やすくなります)、イメージャーで左右に音を散らしてLとRの枠を活用しています。
アマチュアからプロまで幅広く人気があります。アニメの主題歌にオゾンのAIが使われていると聞いたことがあります。即席で、AIボタン一つで、一つの完成形に持っていけるのは凄いことだと思います。
ミックスマスタリング初心者の方は活用した方がよい結果を生みやすいです。作詞作曲編曲に重きを置くアーティストの方も、ミックスマスタリングの負担を減らせるので、便利だと思います。
私が思うozone10のAIの音の特徴をまとめると
- 音圧が出やすい(マキシマイザーの仕様)
- 低域、中域、高域とバランスよい音源になる(見本のEQカーブに動的EQと静的EQで近づけるため)
- ダイナミクスが抑えられる(自動検知でダイナミックEQがかかるため)
- アナログな質感があり音楽的な歪みがある(EQやマキシマイザーのソフトクリップの仕様)
- ステレオ幅が広い(イメージャーにより)
- 音が滑らか(オーバーサンプリングにより)
そもそもAIなのか?
AIという言葉自体、幅広い意味を含んで使われています。AIとは学習していく(ABテストを繰り返して結論を導き出す)ものだと認識しているのですが、ozone10のAIはその意味とは違うかもしれません。超優秀なテンプレートが用意されていて、それに当てはめていくという感じです。
Ozone9と何が変わった?
StabilizerとImpactが登場したことが大きな変化かと思います。ozone9ではターゲットは3択しかなかったのですが、ozone10ではベーシックなジャンルに加えて、EDMやジャズやヒップホップなど10択選べるようになりました。
マキシマイザーにソフトクリップ機能が付きました。ピーク付近でサチュレーションがかかる仕様で、音像が大きくなったり、歪みが加えられたりします。
あとこのソフトクリップ機能にオーバーサンプリング機能が搭載されました。このオーバーサンプリング機能ですが、これまでは、CPUの負担が大きいため、ユニバーサルオーディオのDSPエフェクトシステムがないと使えませんでした。これは、要はエフェクト処理を外部のCPUにさせようというもので、大変高価で、簡単には手が出せませんでした。それがパソコンのCPUの処理能力が近年向上していることにより、オーバーサンプリングの利用がネイティブ(コンピュータのCPUだけで処理を行う事)で可能となりました。
オーバーサンプリングを使うと音の解像度が上がりますが、音が細くなるため、多用は禁物ですが、オゾン10のマキシマイザーのソフトクリップ機能にさらっと搭載されていて、活用されているのは、地味ですが、大きな変化です。
イメジャーは、モノラルにしても、サイドの成分が消えないようにリカバーサイドという機能が追加されました。
音の傾向ですが、ozone9とozone10とで大きく変化しました。ozone9の音がガッチリしていたのですが、オゾン10は音がシルキーで柔らかくなりました。
izotopeではDAW内でozone9とozone10が別々で認識されて、両方使えます。オゾン9を持っている人はアップデートしても旧バージョンが使えるのは安心です。