そもそもピッチ補正は必要?ツールを使う判断基準について
ピッチ補正についてですが、これはどの程度ピッチがズレているのかで、ツールを使うのか使わないのか決まると思います。正しい音程で歌うということが大前提ですが、歌のピッチは案外音程が甘くても気にならないケースが多いです。
後は、ピッチのズレが気になる場面と気にならない場面とがあると思います。3和音や4和音のコードをジャカジャカと鳴らし続けて歌う場合、コードに対して常にメロディの位置関係が問われるため、ピッチのズレが気になりやすいです。
パワーコードの場合はルートと5thしか鳴っていませんから、ピッチが甘くても気になりません。分散和音もコードがずっと鳴っているわけではないのでピッチが甘くても気にならないことが多いです。
数セントフラットしている(シャープしている)でズレているのだったら、ピッチ補正はせずに、そのまま使えばよいと思います。(ただし伴奏の影響でピッチのズレが気になるケースでは使った方がよいかもしれません)。ピッチを完璧に合わせたらいい楽曲になるかといわれると、そういったことはありません。
案外、声質だったり、声の出し方だったりの方で歌が上手だと思ってもらえるケースの方が多いです。ピッチ補正をしてしまうと多かれ少なかれそういったニュアンスが損なわれるので。一長一短あります。
例えば楽曲のミックス作業でも、ダブリングプラグインを使って、バッキングを数セントだけあえてピッチをずらして、センドリターンで送って、ダブらせるということを、エンジニアさんはやったりします。正確な音程とは別のトラックを用意してあえて音に厚みを持たせるのです。ディレイでもモジュレーションをかけてピッチをズラすことがあります。シンセサイザーのピッチをずらしたレイヤーは基本テクニックですね。
ボーカルの手法でもしゃくりやフォールがあったり、ギターではチョーキングがあったり、あえて音程を少しズラすテクニックがあります。
このように、楽曲の中でピッチのズレというのはありふれており、むしろテクニックとして活用されています。
生歌には特有のピッチの取り方があり、ピッチ補正でその良さを奪ってしまう可能性があります。意外とピッチの甘さって気にならないものです。
ピッチ補正プラグインの種類について
プッチ補正プラグインにはサードパーティ製ですと、Auto-Tune(Antares)、Melodyne(Celemony)、Waves-Tune(Waves)の3つがあり、それとは別に、DAW付属プラグインにはそれぞれ独自の補正プラグインが付いています。
上記の3つとDAW付属のものを使ったことありますが、音質の優劣は殆どなく、どのメーカーがケロりにくくなるとかも殆どなく、ただ、それぞれメーカーによって音に特徴が出るといった感じです。編集はMelodyneが画面が大きく、次にAuto-Tune、Waves-Tuneは画面が小さめです。画面が大きい方が編集しやすいです。
DAW付属のピッチ補正プラグイン
- protools(DAW): Melodyne
- studio one(DAW) : Melodyne
- Cubase(DAW) : VariAudio
- Logic Pro(DAW) : FlexPitch
Melodynに限ってはリズム(タイミング)の補正も可能です。ただ、伴奏(特にリズムパート)に対してボーカルがきちんとリズムを合わせて歌うというのは基本ですので、これが大まかにできていればいいのですが、根本的にそれができていない場合は、プラグインで修正できる範囲を超えているので、とり直しとなります。
自然な仕上がりになるピッチ補正の3つのコツについて
@まずはリズムを切っていくことからです。Melodyneですとボーカル音源を読み込んだ時点で自動的にリズムが発音に合わせて分割されます。大まかにはオートでやってくれますから、残りは分割ツールを使ってここはリズムを切った方がいいなという所を切っていって微調整します。それ以外のピッチ補正ツールでも大抵はそうなっています。
リズムで難しいのが、大抵は一つの言葉に一つの音程が割り当てられますが、語尾を伸ばす時に音程が変わることがあります。語尾を伸ばす時にしゃくることもあります。一つの言葉の中でしゃくったりフォールしたり動くメロディも存在します。例えばレミオロメンさんの粉雪では冒頭「こーなーゆきー」の「なー」が「ラ」から「ソ」へとフォールしています。音程がなだらかに半音移動するわけですから、リズムの切り方に注意が必要です。リズムの分割に決まりはないので、ここで切れるなという部分をどんどん切っていきます。耳で聞いて直感的にサクサクと作業します。
リズムを全部切り終えたらピッチを動かしていきます。難しいことは一切なく、正しいメロディラインが存在するはずですから、それを目安に(基準に)して、ピッチを正しい箇所に合わせていくだけです。しゃくったりフォールしたりなどの動きもありますが、しゃくって音程が落ち着くタイミングの部分で音程が中央にくるようにします。一斉にクオンタイズ機能を使ってもよいのですが、しゃくりなどイレギュラーな動きも存在するので、自分の耳で確認しながら合わせていく方が自然となります。
注意点としては、A波形の形は変えずに、上下に動かすだけでピッチ補正をすると良いです。波形の形を変えることも可能なのですが、それをしてしまうと、それぞれボーカル特有の表現がなくなってしまうので。ボーカルによって、しゃくったりフォールしたりまっすぐいれたりビブラートさせたりそれぞれピッチの合わせ方があります。ただ、あえて加工された質感にする音作りもあるので、一概には言えませんが。
あまり神経質にならずにサッサと作業していくのがよいかと思います。もしケロケロボイスにしたいという場合は波形を真っすぐに変形させてやればいいです。ただ分割ツールでリズムを切って、後は波形を上下に動かしてピッチを合わせていくだけですから、簡単な作業となります。
Bもしピッチを間違えて覚えていて(もしくはボーカルの技量でそういったメロディを作れなかったケース)全音以上正しいピッチと離れてしまっているケースでは、大きく動かしてしまうとその箇所だけ不自然にケロっておかしなことになります。その場合、ボーカルをスケール内の最も近い音に置いておけば、違和感はなくなります。オリジナル曲の場合は、新規の方が聞くとそのボーカルが歌っているメロディが正解となるので、特に問題は起きません。スケール内に留めておけば、大丈夫です。ただ、スケールから外れたからダメというわけでもなく、しゃくりやフォールで一時的にスケールアウトする分には全く問題ありません。一時的な音ですので。
マスキング対策でピッチの小さなズレが気にならなくなるケースがある
結局なぜピッチのズレが気になるのかですが、コードに対してメロディがフラットしたりシャープしたりするので、その小さな響きのズレが気になるわけです。コードとメロディのマスキング対策(帯域被りの解消)をすると、ボーカルが前に出て、バッキング(ギターやピアノ)が後ろに引っ込むので、対策前よりもピッチのズレが気にならなくなります。
やり方はマスキング対策ができるEQを用意して、バッキングとボーカルにインサートして、視覚的に帯域が被っているポイントを探して、バッキングの方で被りの部分を0.1dB単位で下げていけば解消されます。